アベマシクリブ(ベージニオ)が補助療法での使用が承認されました!

昨年末にホルモン陽性HER2陰性乳癌症例への補助療法にアベマシクリブの使用が承認されたという情報が入りました。

アベマシクリブは細胞周期(細胞分裂)を司るCDK4/6という酵素の働きを阻害する薬剤で現在までは再発または手術不能乳癌に対してのみ適応がありました。この薬剤が補助療法すなわち手術や化学療法などの一連の初期治療後に再発を予防する目的での使用が認められました。薬剤が適応を拡げるには臨床試験にて得られた科学的根拠(エビデンス)が必要なのですが、アベマシクリブではmonarchE試験という臨床試験の結果にて承認に至りました。この試験では、腋窩リンパ節転移陽性かつ腫瘍径が5㎝以上、組織学的グレード3、ki-67が20%以上のうち1つ以上を満たす症例が対象とされ、この方々を適切な初期治療後に①内分泌療法のみを行う群と②内分泌療法にアベマシクリブを2年間内服する群に1:1に振り分けました。なお、試験参加者には日本人も含まれています。この試験では浸潤癌の再発(iDFS)の有無を評価(非浸潤癌の再発はカウントしない)しています。観察期間2年目の結果は①群のiDFSは88.2%、②群のiDFSは92.1%で有意差をもって②群すなわちアベマシクリブ使用群での再発が抑えられました。真のエンドポイントは5年目、10年目での結果なので、それを知りたいわけですが、それが分かるにはそれだけの期間を待つ必要があり、2年目のこのデータをもって承認となったようです。

ここ20年ぐらいのホルモン陽性乳癌の補助療法を振り返ってみると、1990年代終盤から2000年代では少しでもリスクがある症例(腫瘍径2cm以上、リンパ節転移1個陽性、35歳以下発症など)ではアンスラ-タキサンのフルレジメンを躊躇なく使っていました。その後は過剰治療についての問題定義され必要な症例にのみ必要な治療を行う方向に向かっていきました。高リスク症例へのより強度な治療という意味ではDose-dense療法が確立されたことや内分泌療法の内服期間が延長された程度で、臨床が大幅に変わるようなものはなく進行乳癌の補助療法の成績は頭打ちだったというのが現状でした。今回の承認をもって高リスクホルモン陽性乳癌の補助療法はガラッと変わる可能性があり、講演会でお話しされていた偉い先生は『ゲームチェンジャー』と表現されております。

具体的にどのような症例で使用可能になるかの正式な記載はありませんが、前述のMonarchEで登録された様な症例になるかと思います。すなわち、『腋窩リンパ節転移が4個以上』・『腋窩リンパ節転移が1-3個で、かつ腫瘍径5cm以上または組織グレード3』といったところになると思います。概ね我々がA(E)C-Taxanを適応させる症例に一致するでしょうか。

いい薬剤には得てして有害事象がつきものでアベマシクリブも例外ではありません。有名なものとしては好中球減少およびそれに伴う発熱、間質性肺炎、高度な下痢などがあり時として致死的なレベルにもなり得ます。これらを早期に発見するために頻回の来院が必要で、化学療法中並みの検査が必要になります。

もう一つも問題としてはお金の問題です。ベージニオ150mg 1錠は8616円です。1日2錠ですので1日17,232円、1か月30日として月516,960円、24か月内服するので12,407,040円です。大垣ならそこそこの土地が買えます。3割負担なら月155,088円の負担になります。もちろん、高額療養費制度の対象になります(本制度のついてはまたどこかで説明)。

臨床経過の結果を復習しますがアベマシクリブでの上乗せ効果は3.9%です。3.9%のために有害事象が高い薬剤を使用し、頻回の来院・検査を行う。しかも1240万円で・・・。使用に対しては少し冷静に考える必要もあるかもしれません。

実際に本剤が使用可能になるまではもう少し時間がかかるようなのでメーカーからの情報提供、論文などを吟味、さらには紹介先の先生ともよく相談しながらアベマシクリブの適切な使用を提供できる準備をしていきたいと思います。