経口 COVID-19 抗ウイルス薬ラゲブリオについて

少し前にはなりますが、国内初となる経口(飲み薬)新型コロナウイルス感染症治療薬モルヌピラビル;商品名ラゲブリオが承認されました。ラゲブリオ;ドラクエのラスボスの1つ手前ぐらいのキャラについてそうな名前で、いかにも強そうな名前ですね(基準が謎!)。

ラゲブリオはRNAポリメラーゼという酵素の阻害薬で、感染細胞内に侵入したウイルスに作用することにより、ウイルスRNAの配列に変異を導入し、その増殖を阻止します。簡単に言えば、ウイルスの複製のために必要な設計図を、ラゲブリオでズタズタに破ってしまって、これ以上の複製を阻止するということです。作用機序的には、すっかり影が薄くなったアビガンとよく似ています。

ラゲブリオは1回4カプセルを1日2回、5日間続けて内服します。発症から5日以内の内服開始が必要です。先日のブログにも書いたようにPCRの結果判定まで2-3日かかる状況では、結果が判明するころには発症後5日以上経過していて、本剤を処方できないもしくは処方しても効果が低いという状況になりかねません。そういう意味でも、現在の検査できない状況をどうにか打破する必要があります。

さて、本剤は全てのCOVID-19陽性患者さんに使用することはありません。下記のいづれかの条件を満たす重症化が予想される症例に限っての使用が認められています。61 歳以上・活動性の癌・慢性腎臓病・慢性閉塞性肺疾患・肥満(BMI 30kg/m2 以上)・重篤な心疾患・糖尿病・ダウン症・脳神経疾患(多発性硬化症、ハンチントン病、重症筋無力症等)・コントロール不良の HIV 感染症及びAIDS・肝硬変等の重度の肝臓疾患・臓器移植、骨髄移植、幹細胞移植後。また、ラゲブリオの成分に対し過敏症の既往歴のある患者、妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与禁忌となっています。なので、61歳以上で重症化は予測されれば、使用が可能です。また、60歳以下の場合でも、重篤(具体的基準明記なし)な糖尿病や心不全、肥満があれば投与可能です。当院の現状では、感染者は60歳以下が多く、さすがに上記条件を満たす方は少ないので処方条件にあう方はほとんどいません。

さて、本剤ですが、インフルエンザ陽性のときにタミフルやイナビルを処方する感覚で処方していいかというと、そういうわけにはいきません。まず、本剤を取り扱っている薬局が非常に少なく処方せんを出しても実際に処方してくれる薬局はごくわずかです。また、その後のフォローアップの方法などの方針が示されておらず、処方したのはいいがその後の効果確認などが容易にできないなどの問題があります。また、処方するにも本人の同意書が必要であったりとかなり手間があり、我々開業医のレベルでは処方に躊躇しているというのが実際です。本日、岐阜県医師会長名で積極的な処方を行うようにとの指示があったので、以後様々な指針が出され処方しやすくなっていくものと考えます。

ただし、本剤については臨床試験の結果での有効性が低かったことから使用に疑問がのこるという意見もあります。他国では有効性の低さから導入を見合わせるところもあるようです。

処方のしにくさとは裏腹に効果が低い可能性のあるラゲブリオ、以後、当院でも処方すべきかをよく検討していきたいと思います。